叩いてみたの文化史

二週に続き大雪に見舞われた東京ですが、ヒマにかまけて叩いてみたの歴史を振り返ってみようと思います。動機も目的も特にありません。


叩いてみた、って何? という方はこちらから
叩いてみたとは


2014年2月15日10時現在、ニコニコ動画のタグ検索では10,280件の叩いてみた動画がアップロードされていることが確認できます。「投稿日時が古い順」でソートをかけると、最古の動画は「アマチュア」とだけ銘打たれた外国人ドラマーのMAD風動画でした。



お察しのとおりこれはYoutubeからの転載で、作者はこの人。叩いてみたは本質的には外来文化であり、世界まる見え的なおもしろ映像の類にその源流があるとみてよいでしょう。ちなみに投稿日時は2007年3月7日、ナンバーはsm9926、ニコニコにとって約1万本目の投稿動画は、再生:521,998、コメント:12,798、マイリスト:18,055を獲得しています。


その約10日後、3月16日にアップされたのは12歳の凄腕ドラマーのプレイ。こちらは純粋なドラムファン、音楽ファン向けの動画といえます。



引き続き「投稿が古い順」をみていきます。Youtube転載系動画が5〜6本続いたあと、素人が自己顕示欲のために作成・アップロードした動画の萌芽が現れました。そのハシリはおそらくこちら。2007年5月6日投稿、叩いてみた誕生からはや2ヶ月が経過しています。動画ナンバーがsm252283なので、ニコニコ全体で24万本近い動画がたった2ヶ月で投稿されたというのも驚き。



God knows...のようなアニソン定番曲というチョイス、「顔隠せよ」などプレイとは無関係の荒れたコメント欄、「音悪くてスマソ(´・ω・`) 後半の方が調子良かったです。」という投稿者による予防線など、その後の叩いてみた動画のテンプレートがすでに出来上がっています。もっともこれは「演奏してみた」タグの共通点といえますが。


ともあれYoutube転載系に加えて、自己顕示欲系が新ジャンルとして確立されていきます。いち早くその一翼を担ったのが黒ガチャ氏。2007年6月頃から活動を開始した氏の動画には「ニコニコ元祖演奏してみた」「過去の遺産」などのタグが付与されていますが、顔隠し用マスク、反エレドラ派によるコメント爆撃などの新文化を導入したのは彼の功績といえるでしょう。



なおこの頃はまだけいおん!ブームが到来していないため、らきすたアイマスリトバスなどが演奏してみた界の主流になっています。


同年夏、叩いてみた界に彗星のごとく登場したのが萌作氏。黒ガチャ氏からの追加点として、「宅録(生ドラム)」「ドラム<ネタ動画」などの要素があげられます。ご本人すごい礼儀正しいらしくて個人的にも大好き。



世間的にも知られる叩いてみた動画といえばチョットノイ氏のマリオシリーズが有名ですが、マリオ1叩いてみた動画のYoutube投稿が2007年2月、ニコニコへの転載も同年12月なので、元祖ニコニコドラマー達はまさに日本における叩いてみた文化の先駆者といえるでしょう。



アニソン系とは一線を画したい!と言わんばかりにロキノン系ドラマーが進出しはじめるのは2007年の秋〜冬頃から。アニソン系のようなコメント数、マイリス数を稼げないというどこか肩身の狭い思いをしつつも、自己顕示欲を披見したい男たち(女子の登場はまだしばらく先)の戦いが幕を開けるのでした。



アジカンラルク東京事変など軽音楽部の人気バンドの曲をコピバンの延長線として動画アップロードするという流れも生まれました。私事ですが、初めて叩いてみた動画をあげたのはこの少し後でした(2008年6月〜)。


2008年に入ると初音ミクブームを迎え、メルトをはじめとする複雑なビートに挑戦する輩たちの演奏が大量にアップされだします。



メタル枠はすでに2007年から存在していましたが、2008年2月に投稿されたX JAPANの叩いてみた動画で鮮烈デビューを飾ったWASHIKI氏のように、mixiニコニコ大百科などのSNSでファンページが形成され、一定の人気を得た動画主が叩いてみた系ドラマーとして固有名詞を獲得していきます。この動画は2011年の作品ですが、演奏力も音質も画質もほとんど進化していないのが彼の魅力。



あと大百科に載ってるから一応触れておきますが、2008年春頃から登場したケツドラムや指ドラムと呼ばれる動画群も叩いてみたタグに入れられることがあるようです。ただしここではあまり扱いたくないのでスルーします。


音質ならびに画質の向上は演奏してみた全般の課題でしたが、この年の夏頃からH.264の普及、デジカメ性能の進化などによって高画質化が急速に進みます。個人的に印象深かったのはこのマッキー動画。



その後、叩いてみた動画は群雄割拠の時代に突入します。コンスタントに10,000回台の再生回数を稼げた、ある種のバブル期でした。演奏してみたまとめサイトも登場し、2ちゃんねるではニコニコドラマー格付けなんて議論まであったのですから、隔世の感があります。


90万回再生のあの人の弾いてみた動画から始まったチョコレイト・ディスコ祭りによって、演奏してみたカテゴリは最盛期を迎えます。ギター→ギター→ベースと、1パートずつを付け加える形で完成していった伝説のセッション動画は、おぐにゃ氏の叩いてみたを最後のピースとして完成。2008年11月、CGM文化の到来を高らかに宣言したのでした(名文調)。



その後、叩いてみた界はセミプロ派(ショボン氏など。川口千里ちゃんのように本物のプロもいる)、ネオネタ派(プロ並みに技量があるのにネタを仕込む人々のこと。萌作氏やWASHIKI氏は古典ネタ派で、プロ並みの技量はないが愛されるキャラを持っている点で異なる)、選曲マニアック派などさまざまな宗派へと枝分かれしていきました。ただ私見では2009年5月の中村イネ氏の失脚により演奏してみた帝国自体が弱体化し縮小していく過程においては、盛者必衰だったと考えます。なんだこれ。


3年近くの長い停滞期を経て、古豪の叩いてみたドラマー・酪農仮面氏が2012年末に立ち上げた16人のドラマープロジェクトは、昔からの叩いてみたファンの心を躍らせる動画となりました。惜しむらくは参加したドラマーの大半がこの停滞期に登場した新人ばかりであり、実力はあれどネタ要素が薄いということでしょうか。でもゴブリエルさんは好き。



現在も叩いてみた動画の投稿は続いています。筆者自身も細々とではありますが継続しています。ただコメント数、再生数は全盛期の10分の1程度で、社会的疎外感を味わうためにアップするようなものです。それでも年に2、3本は上げていこうと思っています。やっぱりドラムが好きですし、コピーが好きなのです。私も立派な自己顕示欲系叩いてみたドラマーなのです。


今後ともよろしくお願いいたします。


ラストナイト/toe